口内炎の治療にはこれまで、レーザー治療、フッ化ジアミン銀製剤(サホライド)塗布、軟膏塗布などの方法が用いられてきました。しかし、処置時の疼痛や刺激、軟膏の非定着性により技術的にも難しく、思うような効果を期待できていない感があります。そこで、オブラートを用いた口内炎治療、「口腔内密閉療法」を紹介したいと思います。今までの口内炎治療に疑問のあった方にも、簡単で非常に効果の高い方法として期待に沿えることと思います。材料、方法をいくつかの症例も合わせて紹介します。

用意するものはいたって簡単。一番大きな仕事が薬局でオブラートを入手することです。当院では、国光オブラート株式会社製のを用いています。国光さんはボンタン飴の包み紙も製造しているらしいですよ。そのほか準備するものは、実はオブラート以外は歯科医院で手に入るものばかりなのです。デキサルチン軟膏やデスパなどの口内炎治療用の軟膏類とスパチュラ、ガラス練板、ピンセット2本、以上です。

方法もいたって簡単。口腔内患部、潰瘍部の大きさにあわせて、鋏でオブラートを調整します。軟膏適量をとり、オブラート1枚〜2枚に貼付します。オブラートは湿度が上がると変形してきます(丸まってくる)ので、操作時間はできるだけ早くというイメージで行っています。量的に少量であれば変形は少ないです。そして患部をエアーで乾燥します。唾液が残っていると、停滞性が悪いばかりでなく、変形が大きくなってしまうからです。オブラートの辺縁を2本のピンセットで把持し、口内炎部に貼付します。貼付しにくいときはアシスタントにも手伝ってもらいます。軽くピンセットで押さえて、終了です。オブラートは安定し、口内炎部全体を覆うはずです。2時間ほどは会話をしても簡単にずれることはないですが、30分うがいなどを避けてもらうようにします。


初日


貼り付け後

翌日

当院でのアンケート、その結果は?

当院において、オブラートによる口腔内密閉療法の成績を検証するために、10人の患者に施行し、翌日アンケートを行いました。治療前の疼痛を5として評価しています。

年齢・性別

部位

定着時間

2時間後疼痛

24時間後疼痛

12歳・女児

歯肉

2時間

70歳・女性(症例1)

歯肉

4時間

35歳・男性

口唇

2時間

9歳・男児

上唇小帯

3時間

23歳・女性

上唇小帯

3時間

55歳・男性

歯肉

3時間

32歳・男性

歯肉

3時間

28歳・女性

口唇

4時間

40歳・女性

舌側縁

1時間

22歳・女性(症例2)

口唇

2時間

10人の患者のうち、全員に症状軽減の効果が見られました。2時間後には、ほとんどの患者さんに自覚症状の変化を感じることができ、24時間後ではさらに症状は改善がみられました。翌日の貼付部の状態は、潰瘍は残っているものの、運動させても疼痛のない状態になっていました。

口内炎がおおきくて痛そうです。
軟膏を塗って、貼り付けました。
目立ちません。痛みも2時間で変わってきます。

口腔内密閉療法を用いると、定着時間は2時間を超え、症状の改善状態も明らかで、2時間後の状態では、疼痛はかなり軽減しています。これまでの報告でも2時間で差が出るという報告がされており、今回の検証でもその効果をはっきりと確認することができました。さらに、全くの無痛的処置であり、患者への精神肉体的負担が軽減されるのも明らかです。

オブラートは、ジャガイモやサツマイモの澱粉から造られる植物性の多糖質水溶性可食フィルムで、分類としては食品になります。主な用途は、薬の服用補助や菓子類の包装です。澱粉そのものは水に溶けず消化しにくいですが、これを水に入れて煮ると、澱粉が糊状になり、消化吸収しやすい状態、いわゆるアルファ化という状態になります。この澱粉糊をそのまま放置すると糊内部の水分が滲出して、再び消化しにくい状態に戻りますが、澱粉糊中に水分残っていないと起りません。オブラートはこの性質を応用して、糊状になった澱粉を急速乾燥させてアルファ化を安定させた「食べられる薬包紙」と言えるのです。オブラートは糊化した澱粉を乾燥させて造るので、濡れると元の糊の状態に戻ります。この時、次の現象が発生します。

(1)濡れたところにオブラートが付くと、糊としての性質からそこに貼り付く。

(2)水の中に入れると、ゲル状になる。

以上のことからオブラートという素材は、口腔内環境下、今回の治療法にとって最高の素材であると考えられるのです。

 オブラートの定着時間は、2〜4時間ですが、2時間のものは食事により脱落するものがほとんどで、翌日の感想も
「食事をしなければ、もっと長い時間ついていた。食事も別に痛みなく食べることができた。」
と、どの患者さんからも同じような感想をいただきました。実際の翌日の口内炎の状態は、潰瘍は残っているものの、ほとんど疼痛はなく、意識的に動かしても問題はありませんでした。

 しかし、問題もあります。可動粘膜や舌など動きの激しい部分、あるいは口腔底や頬粘膜などの大唾液腺の開口部付近などの唾液の流量の多いところでは、定着時間が短くなり効果が薄れてしまう、あるいは、貼付のできない状態もあるのが欠点でとしてあげられます。